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登場人物

颯太(そうた)

老人の颯太(そうた)

風子(ふうこ)

台詞の無い「」部分は歌を入れて貰えれば…。

 

 

○お寺(早朝)

 

 

颯太「はぁ、はぁ、ゴーーール! ……なんてね。ふぅ、朝のジョギングは気持ちいいなっと」

風子「」

颯太「うん?」

風子「」

颯太「歌……? お寺の裏から、かな?」

 

 

タイトル「お寺の裏のシルフィード」

 

 

○お寺の裏側

 

 

風子「」

颯太「いた。きれいな歌声だな……」(小声で)

風子「」(歌い終わる)

颯太「あの、ごめんなさい。勝手に聴いてしまいました」

風子「えっ!? あ、いえ、こちらこそ、すいません! まさか、人がいるなんて思わなくて」

颯太「あの、隣、ちょっといいですか?」

風子「え? あ、どうぞ」

颯太「いつも、ここで歌ってるんですか?」

風子「いつもと言いますか、先週くらいにこの辺りに来まして。たまたまお寺の裏を見たら、良い眺めだなって気分が良くなってしまいまして。つい、歌ってしまうんです」

颯太「こちらに越して来たんですか? それとも、親戚の家がここら辺にあるとか?」

風子「えっと、親戚伝いと言いますか。まぁ、そんな感じです」

颯太「じゃあ、その内、帰ってしまうんですか?」

風子「そうですね、あと一週間くらいしたら、出ていく予定です」

颯太「あの、明日もこの時間に歌ってくれますか?」

風子「え? あの、その……、私なんかの歌で良ろしければ……」

 

○お寺の裏側(三日後の朝)

 

風子「」(歌い終わる)

颯太「風子さんの歌を聴くと、ほっとします」(拍手しながら)

風子「ありがとう。颯太君って、変な人ね」

颯太「うん? 急にひどいこと言いますね」

風子「歌詞が分からないのに、真剣に聴いてくれるから」

颯太「それは、風子さんの声がきれいだからですよ」

風子「あはは、嬉しいなぁ。颯太君の前で歌うと、全然恥ずかしくないの。心地よく歌える。なんでかな?」

颯太「それは……、僕が空気みたいに軽い男だからじゃないですかね?」

風子「そっかぁ。……そうだったらいいなぁ」

颯太「え? 風子さん、出来れば、そこは突っ込んでもらいたいんですけど……」

風子「やっぱり颯太君は変な人ね」

颯太「むぅ。納得いかない……」

 

○お寺の裏側(出会ってから一週間後の朝)

 

颯太「風子さんは明日、行ってしまうんですよね?」

風子「ええ。もう、ここを離れないと」

颯太「あの、風子さん」

風子「はい?」

颯太「その、連絡先とか、教えて貰ってもいいですか……?」

風子「え?」

颯太「いや、もしかしたら、二度と会えないかもしれないじゃないですか? できれば、また、ここで会いたいんです」

風子「……明日の朝、またこの場所で会えますか?」

颯太「え、でも、明日は……」

風子「いつもより、ちょっとだけ早ければ大丈夫です」

颯太「わかりました。じゃぁ、また明日」

風子「うん、また明日」

  二人、別れる。

颯太「なんだろう……? 風子さん、思いつめたような顔してたな……」

 

○お寺の裏側

 

颯太「日が出たばっかりで、空が少し赤いな。あ、風子さん、おはよう」

風子「颯太君……」

颯太「風子さん……?」

風子「……私はもう、あなたに会えない」

颯太「……」

風子「でも、あなたのことが嫌いというわけではないの。むしろ、あなたのことは大好き。でも……、でもね。あなたには、もう会えない理由があるの」

颯太「……」

風子「私はシルフィード。風の妖精なんです」

颯太「……」(俯いて泣く)

風子「私達シルフィードは、風に魂を与られえた存在。でも、同じ場所に留まり続けると、魂は失われてしまう。だから、風に乗って絶えず移動し続けなければならないの。お寺のような神聖な場所でだったら、二週間ほどは留まれるけど……」

颯太「……」

風子「颯太君、顔を上げて? 私の手を、握ってみて?」

颯太「え……?」(手がすり抜けて驚く)

風子「私はあなたにさわれない。私は、『風』そのものだから……」

颯太「そんな……」

風子「私達シルフィードには、こんな言い伝えがあるの。『シルフィードを思い続けて一生を終えた人間の男は、シルフになることが出来る。そして、愛するシルフィードと永遠の時を過ごせる』って、言われてる。でも、誰も確認したことはない。シルフになった人間がいたという話は、聞いたことがない」

颯太「……」

風子「私はあなたに歌を聞いてもらえて良かった。嬉しかった」

颯太「それは、僕だって……」

風子「あなたは初めて会った時からそうだった。私の歌を受け入れてくれた。真剣に聴いてくれた。……愛して、くれました」

颯太「……」

風子「あなたが私のことだけを、思い続けてくれるなら、また会えることができるかもしれない。言い伝えが本当なら、私たちは同じ風になれる」

颯太「僕は……」

風子「でも、私はあなたを縛り付けたくない。あなたは自由であって欲しい。私があなたのことを思っていられれば、それでいいの。どうか、幸せな一生を過ごして?」

颯太「そんな、そんなの……!」

風子「そろそろ、行かなくちゃ」

颯太「ま、待って!」

風子「私はシルフィードで良かった。あなたという人に出会えたのだから……」

颯太「約束……! 僕はまた、この場所で!」

風子「ありがとう、颯太君」

颯太「風子さん……? 風子!」

風子「」

 

○お寺の裏側(数十年後)

 

颯太「風子さん、約束、覚えているかな? あなただけを思い続けて、私はまた、この場所に来た」(年老いた声)

颯太「君は今でも、僕のことを想っていますか?」(若い声)

End

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